新しい計測器の中核となるSpectrum Instrumentation製デジタイザとAWG
Electron Paramagnetic Resonance (EPR)またはElectron Spin Resonance (ESR)分光法は、Nuclear Magnetic Resonance (NMR)分光法に似ていますが、陽子などの原子核ではなく不対電子の性質を調べます。化学、生物学、材料科学、物理学の分野で金属錯体や有機ラジカルの電子構造を研究するために使用されます。従来、EPR分光法には1トンを超える重さの巨大な電磁石が必要であり、そのため地下室に設置されることがよくあります。米国ボストン近郊のBridge12社は、現在の機器の約半分のコストでサイズと重量が10分の1のため建物のどの階にも設置できる次世代EPR分光計を発売しました。システムの中心となるのは、パルスを生成するための任意波形発生器 (AWG) と、信号をキャプチャするためのデジタイザの2つのSpectrum Instrumentation製ボードです。
Bridge12社のMagnetic Resonance担当副社長Thorsten Maly氏は次のように語っています。「スタートアップ企業として、当社はEPR分光計の設計を一から行い、最新の技術を使用して既存の製品よりもはるかにコンパクトな次世代製品を作成することができました。これにより、この技術をより多くの研究者が利用できるようになります。当社の顧客のほとんどは、共同研究を通じてこの技術を利用する大学の研究者です。より安価で最先端の機器があれば、この強力な技術を利用できる機会が増えます。次の目標は、経験豊富なオペレーターを必要とする既存の機器よりもはるかに使いやすくすることで、あらゆる科学者が研究に使用できるようにしEPR分光法の普及を促進することです。当社の制御ソフトウェアは多くの機能が自動化されており直感的に使用できるように設計されているため、セットアップが簡単で実験が正しく機能しているかどうかがすぐにわかります。よって、結果を得るためにEPR分光法の専門家である必要はありません。」
EPRの仕組み
EPR分光法が使用される例としては、構造生物学でラジカル間の距離を決定して(膜)タンパク質の折り畳み形状を決定することが挙げられます。これにより、これらのタンパク質が他の分子またはタンパク質とどのように相互作用するかについての洞察が得られます。これは、タンパク質に2つのスピンラベル(マーカー)を取り付け、パルスEPR分光法の一種であるパルス双極子分光法を使用してそれらの距離を測定することによって行われます。
スピンラベルは特別に設計された非反応性のラジカル分子であり、EPR分光法は一連のマイクロ波パルスでラジカルを励起し、その応答を検出することでこれを検出できます。スピン間の双極子結合は、2つのマーカー間の距離に直接つながります。スピンラベルのペアをタンパク質のさまざまな場所に配置して、タンパク質がどのように折り畳まれているかの3次元モデルの決定に使用できる一連の距離を生成することができます。
低ノイズとモジュール式コンポーネント
「EPR分光法は1~100オングストロームの範囲の距離を測定できますが、非常に正確に生成されたパルスシーケンスが必要です。そのため、ノイズレベルが非常に低いSpectrum製カードを使用しました。」とMaly氏は語ります。「さらに、当社の分光計はモジュール式に設計されているため、お客様は必要なパフォーマンスを正確に指定でき、Spectrum社の幅広い製品群から最適なAWGとデジタイザを選択できるためオーバスペックなカードを使用する必要はありません。Spectrum製カードで特に気に入っているのは、イーサネット経由でPCに接続できるNetboxです。これにより、カードを挿入するのに十分な大きさのPCやラックマウントソリューションを使用する必要はなく、コンパクトなPCを使用できます。また、現場での機器のメンテナンスやコンポーネントの交換もはるかに簡単になります。」
35GHz Qバンドレンジでの動作
EPR分光法は、レーダ技術とモバイル通信の進歩により、過去数十年にわたって進化してきました。これらの進歩により、解像度を高めるためにますます高い周波数を必要とするマイクロ波技術を使用する EPRハードウェアの構築に使用できる機器が生まれました。歴史的に、EPR 分光計は 10GHz(Xバンド)で動作していましたが、5G技術のおかげでこの種のアプリケーションに非常に望ましい周波数である 35GHz(Qバンド)などのはるかに高い周波数で動作できる新しい商用機器が登場しました。
AWGは、実験で必要な 200~500MHzの範囲で 10~100nsの長さのパルスを生成し、最初に RF I/Qミキサーを使用して Xバンドレンジにアップコンバートし、次に Qバンドレンジにアップコンバートします。次に、マイクロ波パルスは 100W ソリッドステートアンプに送られ、EPR共振器に送られます。反射信号は、200~500MHzの範囲の IF周波数にダウンコンバートされ、デジタイザに送信されます。EPR分光法では、信号は従来 DCにダウンコンバートされますが、この新しいアプローチによりノイズとアーティファクトが大幅に削減されます。
最新の EPR実験で使用される AWG生成パルスの種類の例を図に示します。WURST(広帯域、均一レート、スムーズトランケーション)パルスは、単純な矩形パルスをはるかに超える励起帯域幅とプロファイルを備えた広帯域マイクロ波パルスです。このようなパルスにより、EPR分光法での広帯域励起が可能になり、AWGのパフォーマンスに大きく依存します。
はるかに軽い磁石で強力な磁場を実現
もう1つの要因は、従来は巨大で重い電磁石を必要とする 1~1.5テスラの強力な磁場を生成できることです。Maly氏は説明します、「必要な磁場強度を生成するために、はるかに小型の超伝導磁石を使用しています。この実験では、サンプルをヘリウムを使用して常に極低温まで冷却する必要があるため、液体冷媒を含まない (ドライ) 磁石のサプライヤーを見つけました。この磁石はコンパクトで、1.2テスラの高磁場を生成できますが、サイズと重量は 130kg 程度と、従来の磁石の数分の1です。この装置では、液体ヘリウムを使用する代わりに、コールドヘッドとヘリウムコンプレッサーを使用します。これは、実質的には閉サイクルで極低温を実現する冷蔵庫です。液体ヘリウムの入手がますます困難になっているため、これは非常に重要です。」と結論付けました。Maly氏は、「これらのカードは EPR分光計の主要部分であるため、Spectrum製品の5年間保証は非常に安心できます。技術サポートも機器のセットアップの支援において最高のサービスを受けることができ、将来的にお客様に何か問題が起きても Spectrum社に頼れると確信しています。」
Bridge12 Technologies社の新しい EPS分光計は現在購入可能で、詳細は https://www.bridge12.com でご覧いただけます。
原文ドキュメント:Spectrum社
Next-generation EPR spectrometers
Next-generation EPR spectrometers.pdf
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Spectrum Instrumentation社について
Spectrum社は、Spectrum Systementwicklung Microelectronic GmbHとして1989年に設立され、2017年にSpectrum Instrumentation GmbHに改名されました。最も一般的な業界標準(PCIe、LXI、PXIe)で500を超えるデジタイザおよびジェネレータ製品を作成するモジュール設計のパイオニアです。これら高性能のPCベースのテスト&メジャーメントデザインは、電子信号の取得・生成および解析に使用されます。同社はドイツのGrosshansdorfに本社を置き、幅広い販売ネットワークを通じて世界中に製品を販売し、設計エンジニアによる優れたサポートを提供しています。 Spectrum社の詳細については、www.spectrum-instrumentation.comを参照してください。